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東京地方裁判所 平成元年(行ウ)102号 判決 1989年10月31日

東京都目黒区柿の木坂三丁目五番二号

原告

島村孝

右訴訟代理人弁護士

石田義俊

東京都目黒区中目黒五-二七-一六

被告

目黒税務署長

佐藤清勝

右指定代理人

林菜つみ

石黒邦夫

藤本和昭

石田猛

田中偉嘉

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的請求)

(一) 被告が昭和五六年三月二五日付けでした、原告の昭和五二年分所得税の更正のうち総所得金額二六二万二〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

(二) 被告が昭和五五年一〇月七日付けでした、原告の昭和五四年分所得税の更正のうち総所得金額二五七万四〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  (予備的請求)

被告が昭和六二年七月八日付けでした。原告の昭和五二年分及び昭和五四年分の所得税についての昭和六一年六月二日付けの更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求趣旨に対する本案前の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五二年分及び昭和五四年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の確定申告、及びこれに対する被告の更正及び過少申告加算税賦課決定、再更正、再再更正は、次のとおりである。

昭和五二年分

<省略>

<省略>

昭和五四年分

<省略>

2  その後、原告は、昭和六一年六月二日、被告に対し、昭和五二年分につき、総所得金額一四三万円、課税長期譲渡所得金額〇円、納付すべき税額一六万四二〇〇円、昭和五四年分につき総所得金額一四〇万二〇〇〇円、課税長期譲渡所得金額〇円、納付すべき税額一六万円である旨の更正の請求をし、被告は、右更正の請求に対し、昭和六二年七月八日付けで更正すべき理由はない旨の各通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

3  原告はこれらの処分を不服として、昭和六二年九月二日、異議申立てをしたが、被告は、同年一一月三〇日、これをいずれも棄却した。原告は、さらに、同年一二月二五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成元年三月二八日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、原告は、同年四月一日、右裁決書の謄本の送達を受けた。

4  しかしながら、次のとおり、原告の本件各年分における土地譲渡に係る譲渡所得については、所得税法六四条二項を適用すべき事由があるから、昭和五二年分についての昭和五六年三月二五日付け再更正及び過少申告加算税賦課決定、昭和五四年分の昭和五五年一〇月七日付け再々更正及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各課税処分」という。)は違法である。

(一) 原告は、訴外コバリ株式会社(以下「コバリ」という。)の訴外日商岩井株式会社(以下「日商岩井」という。)に対する借入金債務について原告がしていた連体保証債務(以下「本件保証債務」という。)につき、履行の請求を受けて、昭和五二年、茅ヶ崎市東海岸北七一六八番一〇、一一所在の土地を四一七七万円で譲渡し、さらに、昭和五四年、厚木市中町三丁目一〇五五番一所在の土地を八六五〇万七〇〇〇円で譲渡し、右譲渡代金をもって本件保証債務を履行した。

(二) ところが、右当時、コバリには弁済能力がなく、求償権を行使することができなかったため、原告は、右求償権を放棄し、所得税法六四条二項を適用して本件各年分の確定申告書を提出したところ、被告は右条項の適用を認めず、また、国税不服審判所長も、前記求償権の行使が可能であるとの理由で、原告の不服申立てを認めなかった。

(三) そこで、原告は、その後、コバリに対し、前記債権放棄の撤回と新たに求償権を認めるよう折衝を続けた結果、同社との間において、原告に対する同社の一億一五〇八万四七九〇円の求償債務の存在を確認する旨の即決和解を成立させた。

(四) しかし、その後、コバリは、経営不振に陥り、原告に対する求償債務の支払をしないまま、昭和六〇年三月三一日に解散するに至り、その清算人が残余財産の分配を検討した結果、原告の右求償権の行使が不能であることが明らかになった。

5  また、以上によれば、本件各年分の譲渡所得の金額の計算にあたって、所得税法六四条二項が適用されるべきであるから、原告のした同法一五二条に基づく更正の請求は理由がない旨の本件通知処分は、違法である。

したがって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、主位的に本件各課税処分の取消しを、予備的に本件通知処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  主位的請求について

本件各課税処分に対する原告の審査請求は、いずれも昭和五六年九月四日付けの裁決により棄却され、同裁決書の謄本は被告に対しいずれも同月二五日に送達されたものであって、右裁決書の謄本は、原告に対しても、右とほぼ同時期に送達されたはずであるから、これにより、原告において右各裁決があったことを知り得たはずである。

よって、平成元年五月一七日付けで提起した本件各課税処分の取消しを求める訴えは、三か月の出訴期間を徒過した後に提起された、不適法な訴えである。

2  予備的請求について

本件通知処分に対する原告の審査請求は、同年三月二八日付けの裁決で棄却され、右裁決書の謄本は原告に対し同年四月一日に送達されたものであるところ、本件通知処分の取消しを求める訴えの出訴期間(行政事件訴訟法十四条四項)は、初日を算入のうえ計算すべきであるから、同年六月三十日までである。

よって、原告が平成元年七月一日付けで予備的に追加した本件通知処分の取消しを求める訴えも、出訴期間を徒過した後に提起された不適法な訴えである。

三  本案前の主張に対する原告の認否及び主張

1  主位的請求の適法性

本件各課税処分に対する原告の審査請求が、いずれも昭和五六年九月四日付けの裁決により棄却されたことは、認める。

しかし、所得税法一五二条に基づく原告の更正の請求が認められれば、本件各課税処分は取消しないし変更されることになるのであり、本件通知処分に対する原告の審査請求を棄却する旨の平成元年三月二八日付け裁決は、本件各課税処分を維持するもので、右処分に関する裁決であることは明らかであるから、右各課税処分の取消しを求める訴えの出訴期間は、右裁決があったことを知った日から起算すべきものである。

したがって、原告の右取消しを求める訴えは出訴期間を遵守した適法なものである。

2  予備的請求の適法性

訴えの変更と出訴期間との関係については、変更前後の請求の間に、訴訟物の同一性が認められるとき、または、両者の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときは、旧請求に係る訴えの提起をもって新請求についての出訴期間の遵守を判断すべきである。

これを本件についてみるに、本件各課税処分の取消請求及び本件通知処分の取消請求は、いずれも、本件各年分の原告の所得に対する課税につき、主債務者であるコバリに対する原告の求償権行使が可能が否か等の事実認定及び所得税法六四条二項についての法適用の違法を争っているのであるから、右各訴えの訴訟物は同一であり、また、仮に訴訟物を異にするとしても、違法の実体が主要部分で共通しており同一の争訟と評価できる関係にあることが明らかである。

したがって、主位的請求に係る訴えの提起の時に予備的請求である本件通知処分の取消しを求める訴えの提起があったと解すべきであり、右予備的請求に係る訴えは出訴期間を遵守した適法なものというべきである。

四  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  主位的請求について

本件各課税処分に対する原告の各審査請求がいずれも昭和五六年九月四日付けの裁決により棄却されたことは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、右裁決書の謄本が昭和五六年九月二五日に被告に送達されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、右裁決書の謄本は、それが被告に送達された右同日とほぼ同じ時期に原告に対しても送達され、原告において右裁決のあったことを知ったものと推認するのが相当であるところ、原告は、右裁決のあったことを知った日から三か月の出訴期間(行政事件訴訟法一四条一項)をはるかに経過した平成元年五月一七日に本件各課税処分の取消しを求める訴えを提起したことが、本件記録上明らかであるから、本件各課税処分に対する取消しの訴えは、出訴期間を徒過した後に提起された不適法な訴えというべきである。

原告は、原告の更正の請求が認められれば、本件各課税処分は取消しないし変更されるものであるから、平成元年三月二八日付けの裁決は、本件各課税処分に関する裁決であることは明らかであり、右各課税処分の取消しを求める訴えの出訴期間は、右裁決があったことを知った日から起算されるべきものである旨を主張するが、右平成元年三月二八日付け裁決は、本件各課税処分を変更すべき所得税法一五二条所定の事由が新たに発生したとする原告の更正の請求を理由がないとした本件通知処分についての審査請求に対するものであって、本件各課税処分とは全く別個の行政処分に関する裁決であることが明らかであるから、原告の右主張は、到底採用することができない。

二  予備的請求について

本件通知処分に対する原告の審査請求が平成元年三月二八日付けの裁決により棄却されたこと及び右裁決書の謄本が同年四月一日に原告に送達されたことは、当事者間に争いがない。

したがって、本件通知処分の取消しを求める訴えの出訴期間(行政事件訴訟法一四条四項)は、原告において裁決があったことを知った日である右同日から三か月の期間内である同年六月三〇日までであるところ(右期間の計算においては初日を算入すべきである。最高裁判所昭和五二年二月一七日判決、民集三一巻一号五〇頁参照)、右出訴期間を徒過した同年七月一日に原告が右趣旨の訴えを予備的に追加する旨の書面を当裁判所に提出したことが、本件記録上明らかである。

ところで、本件各課税処分の取消しを求める訴え(主位的請求)が本件通知処分の取消し求める訴え(予備的請求)の出訴期間内である同年五月一七日に提起されているところ、原告は、本件各課税処分の取消請求及び本件通知処分の取消請求の訴訟物は同一であり、また、仮に訴訟物を異にするとしても、違法の実体が主要部分で共通しており同一の争訟と評価できる関係にあることが明らかであるとして、主位的請求に係る訴えの提起の時に予備的請求である本件通知処分の取消しを求める訴えの提起があったと解すべきである旨を主張する。

しかし、原告が予備的に追加した本件通知処分の取消しを求める訴えにおいては、前述のとおり、本件各課税処分を変更すべき新たな事由が発生したとする原告の更正請求に理由があるか否かが審理の対象となるのであって、予備的請求は、本件各課税処分の取消しを求める主位的請求とは訴訟物を異にし、また、主位的請求と同一の争訟と評価できる関係にないことは明らかであるから、本件各課税処分の取消しを求める主位的請求に係る訴えの提起の時に予備的請求である本件通知処分の取消しを求める訴えの提起があったと解釈する余地はないものといわざるを得ない。

そうすると、原告が予備的に追加した本件通知処分の取消しを求める訴えも、出訴期間を徒過した後に提起された、不適法な訴えというべきである。

三  よって、本件訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)

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